空室の改善方法の1つに、募集条件の改定があります。それでは、募集状況の改定は賃貸経営にどのような影響を与えるのでしょうか。詳しく見てみましょう。

A 賃料の適正化

賃料には『家主さんが収益として欲しい賃料』と『募集する賃料』、『実際に契約される賃料』など、色々な種類があります。管理会社、特にプロパティマネジメントを推進している会社は、1円でも高い賃料で、早く契約をしようとします。しかし、部屋を探されている方が、実際に契約される賃料は、立地・物件の構造・間取り・立地・日当たり・面積・設備など様々な要素を考慮して『わっ、お得だな!』と思った時のその値段になります。ここにギャップが発生します。従って、そのギャップを想定して家賃の値下げ幅を仲介会社、あるいは管理会社に持たせておくことは重要になります。

では、家賃の設定はどのようにすれば良いでしょうか?それは、周辺の競合物件、しかも、少しだけ負けている物件、一緒に案内したら多分そっちに決まるであろう物件をサンプルにして、対象物件と比較します。実際に、部屋を案内する時は、2~3件案内して選んでもらうようにしますので、経験に基づく物件洗濯なので、信ぴょう性があります。ですから、現場で働いておられる仲介業者さんに聞くのが、一番手っ取り早いのではないでしょうか。そして、物件には1つとして同じものはありませんが、比較対象物件の誤差を修正しながら比較して、その平均値で市場で契約できるであろう家賃を算出します。

ここでは、諸条件を比較して、今の物件の力を出すということが重要になります。空室対策を考える家主様で勘違いされることが多いのは、前回決まった賃料をベースで考えてしまうことです。1つ前の契約がこの条件で決まったから、あるいは、今この条件で入ってもらっているからと考えそうですが、前の入居者が退去してから次の入居者が入るまでに4年~6年が経過しています。その間まったく家賃が下がらなかったなんてことはまれだと思います。

B 家賃を下げる

一番即効性があるのが、この家賃を下げることになります。特に、賃貸仲介主体の業者さんにこの傾向が強いと思います。また、学生さんの賃貸をされている業者さんにもこの傾向が強いのではないでしょうか。もし、あと5年で建物を取り壊すというのであれば、それでも良いかもしれません。また、大学移転や工場の閉鎖などで、周辺の相場がぐっと下がってしまった場合などは、家賃を下げるしか方法がないかもしれません。そして、そもそも新築から20年も家賃を下げていなかったなんて場合は、家賃を下げて、さらに他の事をしないと始まらない、なんてことも発生します。この場合は値下げもやむを得ないでしょう。

しかし、家賃を下げるということには、デメリットも発生します。収益物件である、賃貸アパートやマンションでは、粗利(NOI・ネットオペレーションインカム)を近隣の適正な利回り(キャップレート)で割り戻すと物件の値段が出ます。(例えば、NOIが1億円でキャップレートが10%だった場合は、1億円÷10%=10億円となります)ですから、NOIが9000万円になってしまった場合は、9億円に物件価格が下がってしまいますので、売却時1億円のマイナスがでることになります。1000万円の粗利の減少が1億円のマイナスになるわけです。この10分の1のスケールで考えると、1000万円÷10%=1億円、900万円÷10%=9000万円ですので、粗利が100万円減少することで、1000万円の価値が減少するのです。

厳密にいうと、この計算は収益還元法の直接還元法(DC法)での計算ですから、時間的価値は計算されていませんが、こう考えていただくと、いかに家賃の減少による影響が大きいかが理解していただけるのではないかと思います。

他にも、家賃が下がることにより、属性の悪い入居者さんが入ってしまうことが発生します。そうした場合に、騒音トラブル、お隣さんとの関係悪化、住環境の悪化、犯罪・自殺リスクなど、数字で読みにくいリスクも発生する率が高まります。また、インターネットがこれだけ日常的になっている時代には、お隣さんの家賃がさげて募集されているのが、入居者さんには筒抜けです。以前、私が賃貸仲介をしていたときに、契約後の物件の条件をずっとポータルサイト(どの業者さんでも乗っけられるHPみたいなもの。SUUMOとかHOME’Sとかが有名ですね)を追っかけていたことがありました。5年くらい前ですが、あのころから、時代が変わってきていると肌で感じています。

このように、デメリットもある中での家賃の値下げを理解してするのであれば、致し方ないでしょう。しかし、そこまで大変なことなんだということを気付かずにただ値下げしようと話している不動産業者が多いのも事実です。本当にそれでいいのか、ご自身の胸に手を当ててよく考えてみてください。

C 家賃を下げない選択肢

家賃を出来るだけ下げないということが資産維持上大切だということはご理解いただけたのではないかと思います。では、家賃を下げずに空室を埋める方法にはどのようなものがあるでしょうか。先ずは、家賃以外の礼金・敷金・更新料・AD(広告料)・フリーレント期間の検討・募集対象者の条件緩和(高齢者OK・生活保護OK・ペット可など)・特別キャンペーンの実施・家具付き物件の設定などでしょうか。これをすることで、家賃を下げずに契約できれば、目先の収入は減りますが、資産価値は落とさずに済みます。もちろん、バランスが大事ですが。

ちなみに、京都と大阪の不動産会社に勤務して感じたことですが、大阪は賃貸仲介店の勢いが強く感じられます。そのため、AD(広告料)が多くかかる傾向にあります。ADは低くていいんですが、メンテナンス単価などが高く感じられます。総合的にみると、大阪の物件のほうが運営費が5%前後高いようです。私たちが加盟しているIREM JAPANで出している全国賃貸住宅実態調査を見るとご理解いただけるのではないかと思います。

IREM JAPAN 全国賃貸住宅実態調査

また、最近では、ホームステージングという手法が注目を浴びています。元々、分譲マンションはモデルルームがあるのに、賃貸はないよね~。という意見がありました。そこで、専門のコーディネーターが家具や小物などのインテリアをトータルで演出する手法が編み出されたわけです。もともと、欧米では30年以上も前から行われており、主に不動産を売買する際の手助けになるものでした。この手法を取り入れることにより、入居者さんに『部屋』を売るのではなく、『住まい方』を売ることが可能になります。

一般社団法人ホームステージング協会

それでは、上記の方法以外に何かないのか!と皆さん思いませんか?

あるんです。CPMの授業の中で、ある講師がこのようなことをお話されていました。『賃貸管理でレバレッジが効く』と。それは、特にこのあたりではないのか?と思うわけです。賃貸経営の考え方の中に『テナント・リテンション』という考え方があります。入居者さんに長く住んでもらうという考え方です。これは、かなり合理的ではないでしょうか。やむを得ない理由での退去は致し方ないとして、入居中に退去するかもしれないという情報を察知して、事前に手を打つことにより長く住んでもらいます。そうすると、新規募集費用や退去後のメンテナンス費用、空室損などがかからなくて済むわけです。では、具体的に何をするのかというと、アンケートを取ったり、掃除をしっかりやったり、日々のクレーム(サービスリクエスト)を入居者さんの立場に立って対応したりすることで、入居者の満足度を向上させます。これは、実は非常に見えにくいのです。賃貸管理業でしっかりお仕事をされている方は、このあたりをもっと理解してほしいところではないでしょうか。